書誌: 日本老年医学会雑誌 ,2010
前場 康介, 竹中 晃二 (2010). 日本老年医学会雑誌. Vol. 47, No. 4 P 323-328.
要 約 目的:転倒は,高齢者において最も一般的で深刻な健康問題の一つである. Tinetti et al.(1990 )は,転倒恐怖を自己効力感の観点から捉え,転倒自己効力感を提唱している.しかし我が国においては,転倒自己効力感およびその影響因子については,十分な検討がなされているとは言い難い.そこで本研究では,高齢者の日常生活に伴う因子が転倒自己効力感に与える影響について検討した.方法:調査協力への同意を得た 60 歳以上の在宅高齢者 180 名(男性 93 名;女性 87 名)を対象として,個別面談方式による質問紙調査を行った.調査内容は,転倒自己効力感および転倒経験の有無,現在の身体活動時間,などを含むものであった.結果:ステップワイズ法による重回帰分析の結果,転倒自己効力感に最も強く影響しているのは主観的健康状態であり,次いで,転倒経験,年齢,慢性疼痛の有無,平日の座位時間,および中強度以上の身体活動時間が有意な影響を示した.性別,家族形態,知人の転倒の有無,および歩行活動時間については,転倒自己効力感へ有意な影響を与えなかった.結論:本研究の結果から,中強度以上の身体活動や主観的健康状態が転倒自己効力感の向上に寄与することが明らかとなった.また,過去の転倒経験や慢性疼痛の存在は,自己効力感を低下させる危険因子として作用する可能性が考えられた.今後の転倒予防プログラムでは,転倒自己効力感の向上を含む多因子的な介入方略の必要性が望まれる. Key words :転倒自己効力感,身体活動,在宅高齢者,自己効力感の情報源,多因子的アプローチ